このレポートの目的は、現代日本における科学観と保守主義の関係を明らかにすることである。
集団的自衛権関連の立法での憲法学者の意見の無視や南京大虐殺にかんする歴史学者の学説の否定など、近年、日本の一部の保守層で学問的な知見を露骨に否定する動きが目につく。一般に科学や学問(以下、科学で総称)は伝統や慣習を否定することにつながることがあるため、保守主義者ほど科学に対して否定的になりがちであるといわれている。もしもそうならば、社会全体が保守化していけば科学への風当たりはますます厳しくなり、科学や高等教育機関の予算削減や言論統制といった事態が日本でも起きるかもしれない。実際、米国では共和党政権下で科学関連予算の削減が行われた。
しかし、これまで日本の保守は米国の宗教的な保守のように露骨に科学と対立してきたとは思えない(未確認)。最近の日本において保守と対立したのは、文系の学問なので、人文・社会科学系の学問に対する風当たりが以前よりも強まっているというだけのことなのかもしれない。また、原子力発電所の事故をきっかけに「原子力村」に対する批判が強まった。日本では自然科学に対しては環境社会学や科学的知識の社会学 (Sociology of Scientific Knowledge: SSK) 、科学・技術・社会論 (STS) を中心に、左翼の間で批判が根強い。それゆえ現代日本における科学と保守主義の関係は不明であり、確認しておくべき重要な問題である。以下では、両者の関係を探索的に分析していく。
このレポートでは世界価値観調査・第6波 (World Values Survey 6th Wave: WVS6) の日本データを用いる。実査は2010年の11月と12月に行われた。対象者は (記述はないがおそらく同年の10月1日時点で)18 歳以上79歳以下 の男女である。Methodology Questionaire には上限も下限もないとされているが、18~79歳ならば WVS6 では「上限も下限もない」とみなすのかもしれない。、20歳以上に関しては層化2段無作為抽出、18歳と19歳に関しては母集団の人口比に比例するように調査地点ごとにサンプルが割り当てられ(割当法)、地点内ではランダムウォーク法で対象者が選ばれている。面接法と留置法が併用されている。有効サンプルサイズは 2443 で、回収率は 57.0% であるが、いくつかの質問項目で DK.NA. が著しく多いため、最終的に用いる変数すべてでリストワイズ処理すると、1008 しか残らない。調査票では、ほぼすべての質問項目に「わからない」という選択肢が明示されているので、難しい判断を迫る質問では「わからない」が選ばれていると思われる。以下、この節の指標を構成するための探索的因子分析では、用いる項目に関してリストワイズで欠損値処理し、次の「分析結果」の節の分析では、用いる変数全てでリストワイズしたサブサンプルを用いている。
科学観は、6つの質問項目で測られている。まず、以下の5つの意見に対する賛否を「全く反対」から「全く賛成」までの 10 点尺度でたずねている(3, 4, 5 番目の質問項目は数値が大きいほど科学に対して肯定的になるよう反転して用いている)。
さらに
一般的に、科学技術によって、世界はより良くなっているでしょうか、悪くなっているでしょうか。
という質問に対する回答をやはり 1~10 の選択肢でたずねている(値が大きいほど「良くなっている」という考えに近い)。以下では探索的因子分析で、科学に対する肯定的な態度の指標を作る。6項目の記述統計と相関係数は以下のとおり。
## [1] "表1: 科学に対する態度の記述統計"
## 健康・快適 機会次世代 頼りすぎ 善悪崩壊 日常不重要 世界良く
## Min. : 1.000 Min. : 1.000 Min. : 1.000 Min. : 1.000 Min. : 1.00 Min. : 1.000
## 1st Qu.: 6.000 1st Qu.: 7.000 1st Qu.: 5.000 1st Qu.: 5.000 1st Qu.: 6.00 1st Qu.: 6.000
## Median : 8.000 Median : 8.000 Median : 6.000 Median : 6.000 Median : 8.00 Median : 7.000
## Mean : 7.483 Mean : 7.669 Mean : 6.602 Mean : 6.456 Mean : 7.23 Mean : 6.797
## 3rd Qu.: 9.000 3rd Qu.: 9.000 3rd Qu.: 8.000 3rd Qu.: 8.000 3rd Qu.: 9.00 3rd Qu.: 8.000
## Max. :10.000 Max. :10.000 Max. :10.000 Max. :10.000 Max. :10.00 Max. :10.000
## NA's :352 NA's :396 NA's :622 NA's :747 NA's :438 NA's :420
## [1] "表2: 科学に対する態度の相関行列"
## 健康・快適 機会次世代 頼りすぎ 善悪崩壊 日常不重要 世界良く
## 健康・快適 1.00 0.80 0.11 0.14 0.27 0.49
## 機会次世代 0.80 1.00 0.10 0.15 0.25 0.48
## 頼りすぎ 0.11 0.10 1.00 0.51 0.28 0.17
## 善悪崩壊 0.14 0.15 0.51 1.00 0.30 0.22
## 日常不重要 0.27 0.25 0.28 0.30 1.00 0.28
## 世界良く 0.49 0.48 0.17 0.22 0.28 1.00
1, 2, 6 番目の項目の間の相関と 3, 4 番目の項目の間の相関が比較的強く、5番目の項目はあまり強くはないが、その他すべての項目とまんべんなく相関しているのがわかる。最小二乗法で因子分析した場合の因子数を検討した結果は以下の通り。
## [1] "表3: 因子数検討のための諸統計"
## dof chisq RMSEA SRMR
## 1 9 1.047630e+03 0.21754568 1.548501e-01
## 2 4 2.556278e+01 0.04703153 1.631403e-02
## 3 0 5.771167e+00 NA 6.585710e-03
## 4 -3 1.040906e-09 NA 1.210979e-07
## 5 -5 0.000000e+00 NA 4.158140e-11
## 6 -6 0.000000e+00 NA 5.152006e-16
## Parallel analysis suggests that the number of factors = 2 and the number of components = NA
ほぼすべての指標で 2 因子モデルが示唆されている。オブリミン法で斜交回転させた 2因子モデルでの因子負荷量などは以下のとおり(0.1 未満の負荷量は記載を省略、)。
## [1] "表3: 科学に対する態度の因子分析 (最小二乗法、オブリミン回転)の結果 (MR1, MR2 が2つの因子の負荷量)"
##
## Loadings:
## MR1 MR2
## 健康・快適 0.911
## 機会次世代 0.881
## 頼りすぎ 0.675
## 善悪崩壊 0.768
## 日常不重要 0.224 0.354
## 世界良く 0.497 0.180
##
## MR1 MR2
## SS loadings 1.903 1.204
## Proportion Var 0.317 0.201
## Cumulative Var 0.317 0.518
## [1] "2つの因子の間の相関係数"
## [1] 0.23
第一因子は 1, 2, 6 番目の項目の負荷量が高く 5番目の項目も若干だが負荷があるのがわかる。第二因子は、3,4番目の項目に関して負荷量が高く、5, 6 番目の項目の負荷量もあまり大きくはないが存在する。2つの因子の間には若干の相関が見られる。大雑把に言えば、第一因子は科学のもたらす便益 (benefit) や利得 (payoff) をとらえた項目ほど負荷が強いのに対して、第二因子は科学の負の副作用をとらえた項目ほど負荷が強い、と言えよう。それゆえ第一因子は「科学利得認知」、第二因子は「科学副作用否定」と名付ける。以下ではこの 2つの因子得点(サーストン法で計算)を従属変数として分析をすすめる。なおどちらの因子得点も値が大きいほど科学に対して肯定的なように作ってある。
性別、年齢、教育年数、世帯収入(「300万円未満」から「1200万円以上」までの 10 択の質問項目)のほかに、以下で詳しく説明するが、相対的剥奪、保守-革新尺度、宗教性、インターネット利用度も用いる。保革尺度と宗教性が保守性の尺度であり、その他はコントロール変数である。 なお、従業上の地位やインターネット以外のメディア(新聞など)も探索的に分析したがまったく有意な効果がなかったので、以下では分析しない。
相対的剥奪は、貧困の指標の一種で、日常生活においていくつかの事柄に関してどの程度不自由しているのかたずねることによって測定される。具体的には、「過去1年間の間にあなたご自身あるいはあなたのご家族は、どのぐらいの頻度で次のような状況に置かれましたか。」という問いで、
が具体的な状況として挙げられており、選択肢は「頻繁にある」「時々ある」「ほとんどない」「全くない」の4つである。これらを単純加算して相対的剥奪指標を作っている。4つの変数の相関係数と因子分析(最小二乗法)の結果は以下のとおり。
## [1] "表4 相対的剥奪の4項目間の相関係数"
## 食料 犯罪 薬 収入
## 食料 1.00 0.39 0.57 0.56
## 犯罪 0.39 1.00 0.51 0.37
## 薬 0.57 0.51 1.00 0.59
## 収入 0.56 0.37 0.59 1.00
## [1] "表5 相対的剥奪の4項目の探索的因子分析における因子数を判断するための指標"
## dof chisq RMSEA SRMR
## 1 2 2.409103e+01 0.1048927 3.186881e-02
## 2 -1 4.162667e-08 NA 1.538574e-06
## 3 -3 0.000000e+00 NA 1.517944e-10
## 4 -4 0.000000e+00 NA 2.333230e-16
## Parallel analysis suggests that the number of factors = 2 and the number of components = NA
すべての指標の間に実質的な相関があり、1つの因子だけで SRMR = .032, \(X^2=2.41\) (df=2, ns), RMSEA= .105 で、RMSEA がやや大きいものの 1 因子で十分と思われる。そもそも4項目しかないので、カイ二乗値と自由度をもとにした適合度指標は1因子モデルに関してしか計算出来ない。Parallel Analysis の結果を見ると、機械的には 2 因子モデルが示唆されるが、2 因子における実際のデータとシミュレートされたデータの差異はほんのわずかであり、あまり意味は無いと思われる。1因子モデルの因子負荷量と固有値、寄与率は以下のとおり。
## [1] "表6 相対的剥奪の因子分析 (最小二乗法、オブリミン回転)の結果 (MR1 が因子負荷量)"
##
## Loadings:
## MR1
## rd1 0.712
## rd2 0.577
## rd3 0.823
## rd4 0.728
##
## MR1
## SS loadings 2.047
## Proportion Var 0.512
ふたつ目の項目(rd2: 犯罪被害の恐れ)の因子負荷量がやや低いが、概ね同程度の負荷量だと思われるので、4つの項目を同じ重みで加算して、Z得点に変換したものを相対的剥奪の指標として用いることにした。ちなみにクロンバックのアルファは 0.797 である。
保革尺度のワーディングは以下のとおり
政治の立場を明らかにするにあたって、世間ではよく「左(革新)」とか「右(保守)」とかいいますが、あなたはいかがですか。(以下省略)
これに対する答えを 1~10 までの10択(値が大きいほど右(保守))で答えてもらっている。この値から一律に5を引いて(つまり -4~5 のレンジで分布する変数にして)用いる。
保守主義の宗教的な側面を表す変数として以下の3つを用いる。
WVS6 には他にも宗教性を尋ねる質問がいくつか含まれているが、DK.NA. が著しく多いので、これ以上サンプルを減らさないために比較的欠損値の少ない上の3つを用いることにした。3つの項目の相関係数は以下のとおり。
## [1] "表7 宗教性の質問項目間の相関行列"
## 参拝 お祈り 神重要
## 参拝 1.00 0.53 0.40
## お祈り 0.53 1.00 0.53
## 神重要 0.40 0.53 1.00
3項目しかなく、相関も十分あるので因子分析するまでもない。3つの変数をそれぞれZ得点に変換したものを単純に加算して宗教性の尺度とした。クロンバックのアルファは 0.738 である。
インターネットの利用頻度はさまざまなメディアの利用頻度を尋ねる質問群のうちの一つで、ワーディングは以下のとおり。
我々は様々な情報源を通して、国内外で起こっていることを知ります。次にあげる情報源から、あなたはどのくらいの頻度で情報を得ていますか。
選択肢は「毎日」から「まったくない」までの5択で、1週間あたりの利用日数に換算して用いる。
世帯収入は10カテゴリあるが、収入カテゴリの上限値と下限値の平均を割り当てて連続変数として用いる。なお 1200万円以上に関しては、Ligon (1989) の概算法にしたがって計算し、1739.6 万円を割り当てている。See http://sociology.jugem.jp/?eid=816 .
回帰分析に用いる変数の記述統計は以下のとおり。
## [1] "表8 回帰分析に用いる変数の記述統計"
## 科学利得 科学副作用 sex age 教育年数
## Min. :-3.969 Min. :-3.2110 Female:374 Min. :18 Min. : 9
## 1st Qu.:-0.555 1st Qu.:-0.6075 Male :634 1st Qu.:39 1st Qu.:12
## Median : 0.217 Median : 0.0035 Median :52 Median :12
## Mean : 0.039 Mean : 0.0546 Mean :51 Mean :13
## 3rd Qu.: 0.780 3rd Qu.: 0.7657 3rd Qu.:63 3rd Qu.:16
## Max. : 1.537 Max. : 1.9070 Max. :79 Max. :16
## 世帯収入 相対的剥奪 保革尺度 religion Internet
## Min. : 150 Min. :-0.843 Min. :-4.00 Min. :-1.999 Min. :0.0
## 1st Qu.: 350 1st Qu.:-0.843 1st Qu.:-1.00 1st Qu.:-0.766 1st Qu.:0.0
## Median : 550 Median :-0.351 Median : 0.00 Median :-0.071 Median :1.0
## Mean : 605 Mean : 0.018 Mean : 0.57 Mean :-0.021 Mean :3.3
## 3rd Qu.: 750 3rd Qu.: 0.631 3rd Qu.: 2.00 3rd Qu.: 0.640 3rd Qu.:7.0
## Max. :1740 Max. : 5.051 Max. : 5.00 Max. : 2.835 Max. :7.0
## [1] "表9 回帰分析に用いる変数の相関行列"
## 科学利得 科学副作用 男性 age 教育年数 世帯収入 相対的剥奪 保革尺度 religion Internet
## 科学利得 1.00 0.21 0.08 0.02 0.09 0.09 -0.19 0.08 0.03 0.14
## 科学副作用 0.21 1.00 0.06 -0.01 0.13 0.11 -0.22 -0.02 -0.18 0.16
## 男性 0.08 0.06 1.00 0.03 0.18 -0.01 0.06 -0.02 -0.10 0.09
## age 0.02 -0.01 0.03 1.00 -0.25 -0.11 0.07 0.25 0.31 -0.37
## 教育年数 0.09 0.13 0.18 -0.25 1.00 0.25 -0.16 -0.09 -0.07 0.33
## 世帯収入 0.09 0.11 -0.01 -0.11 0.25 1.00 -0.30 -0.01 -0.03 0.19
## 相対的剥奪 -0.19 -0.22 0.06 0.07 -0.16 -0.30 1.00 -0.04 0.07 -0.13
## 保革尺度 0.08 -0.02 -0.02 0.25 -0.09 -0.01 -0.04 1.00 0.19 -0.09
## religion 0.03 -0.18 -0.10 0.31 -0.07 -0.03 0.07 0.19 1.00 -0.13
## Internet 0.14 0.16 0.09 -0.37 0.33 0.19 -0.13 -0.09 -0.13 1.00
## [1] "extract"
## [1] "表10 科学利得認知の重回帰分析"
##
## ==========================================================================================================================
## Model 1 Model 2 Model 3 Model 4 Model 5 Model 6 Model 7
## --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
## (Intercept) -0.903 ** -0.401 -0.429 -0.431 -0.451 -0.563 -0.544
## (0.298) (0.308) (0.306) (0.309) (0.308) (0.307) (0.307)
## 男性 0.129 * 0.158 * 0.140 * 0.150 * 0.150 * 0.140 * 0.147 *
## (0.064) (0.063) (0.063) (0.064) (0.063) (0.063) (0.063)
## I(age - 51) 0.004 0.004 0.006 ** 0.006 * 0.005 * 0.005 * 0.004
## (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002)
## I((age - 51)^2) 0.000 * 0.000 * 0.000 * 0.000 ** 0.000 ** 0.000 * 0.000 *
## (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000)
## scale(教育年数) 0.074 * 0.057 0.029 0.027 0.030 0.033 0.025
## (0.033) (0.032) (0.033) (0.033) (0.033) (0.033) (0.040)
## log(世帯収入) 0.129 ** 0.046 0.028 0.027 0.027 0.036 0.033
## (0.046) (0.048) (0.048) (0.048) (0.048) (0.048) (0.048)
## 相対的剥奪 -0.173 *** -0.167 *** -0.170 *** -0.166 *** -0.164 *** -0.164 ***
## (0.032) (0.032) (0.032) (0.032) (0.032) (0.032)
## Internet 0.040 *** 0.040 *** 0.040 *** 0.042 *** 0.043 ***
## (0.010) (0.010) (0.010) (0.010) (0.010)
## religion 0.042 0.033 0.035 0.036
## (0.031) (0.032) (0.031) (0.031)
## I(religion^2) 0.002 0.002 -0.010 -0.011
## (0.023) (0.023) (0.023) (0.023)
## 保革尺度 0.036 * -0.005 -0.005
## (0.016) (0.019) (0.019)
## I(保革尺度^2) 0.025 *** 0.025 ***
## (0.006) (0.006)
## scale(教育年数):religion -0.046
## (0.030)
## scale(教育年数):I(religion^2) 0.004
## (0.024)
## --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
## Adj. R^2 0.020 0.047 0.061 0.061 0.065 0.080 0.081
## Deviance 927.093 900.681 886.589 884.981 880.748 865.202 863.133
## AIC 2790.241 2763.108 2749.211 2751.381 2748.549 2732.597 2734.184
## BIC 2824.651 2802.433 2793.452 2805.454 2807.537 2796.502 2807.920
## Num. obs. 1008 1008 1008 1008 1008 1008 1008
## ==========================================================================================================================
## *** p < 0.001, ** p < 0.01, * p < 0.05
年齢と保革尺度の効果がわかりにくいので、その他の変数を平均値に固定し、年齢と保革尺度だけを変化させたときの Model 6 からの推定値をプロットしたのが次の図である。
次に、科学副作用否定の分析結果をみてみよう。
## [1] "表11 科学副作用の重回帰分析"
##
## ==========================================================================================================================
## Model 1 Model 2 Model 3 Model 4 Model 5 Model 6 Model 7
## --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
## (Intercept) -0.792 ** -0.213 -0.238 -0.085 -0.083 -0.099 -0.079
## (0.301) (0.310) (0.309) (0.305) (0.305) (0.307) (0.306)
## 男性 0.088 0.121 0.105 0.060 0.060 0.058 0.072
## (0.065) (0.064) (0.064) (0.063) (0.063) (0.063) (0.063)
## I(age - 51) 0.001 0.001 0.003 0.006 ** 0.007 ** 0.006 ** 0.006 **
## (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002)
## I((age - 51)^2) -0.000 ** -0.000 ** -0.000 * -0.000 ** -0.000 ** -0.000 ** -0.000 **
## (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000)
## scale(教育年数) 0.093 ** 0.074 * 0.049 0.059 0.058 0.059 0.088 *
## (0.033) (0.033) (0.033) (0.033) (0.033) (0.033) (0.040)
## log(世帯収入) 0.142 ** 0.046 0.031 0.025 0.025 0.026 0.022
## (0.047) (0.049) (0.049) (0.048) (0.048) (0.048) (0.048)
## 相対的剥奪 -0.199 *** -0.194 *** -0.178 *** -0.179 *** -0.179 *** -0.180 ***
## (0.032) (0.032) (0.031) (0.031) (0.031) (0.031)
## Internet 0.035 *** 0.034 *** 0.034 *** 0.035 *** 0.035 ***
## (0.010) (0.010) (0.010) (0.010) (0.010)
## religion -0.162 *** -0.161 *** -0.160 *** -0.161 ***
## (0.031) (0.031) (0.031) (0.031)
## I(religion^2) -0.083 *** -0.083 *** -0.085 *** -0.085 ***
## (0.023) (0.023) (0.023) (0.023)
## 保革尺度 -0.005 -0.010 -0.013
## (0.016) (0.019) (0.019)
## I(保革尺度^2) 0.004 0.003
## (0.006) (0.006)
## scale(教育年数):religion -0.060 *
## (0.030)
## scale(教育年数):I(religion^2) -0.037
## (0.024)
## --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
## Adj. R^2 0.032 0.066 0.077 0.116 0.115 0.115 0.119
## Deviance 950.933 915.848 904.983 864.458 864.391 864.078 858.431
## AIC 2815.834 2779.940 2769.911 2727.730 2729.652 2731.287 2728.678
## BIC 2850.245 2819.266 2814.152 2781.803 2788.641 2795.192 2802.414
## Num. obs. 1008 1008 1008 1008 1008 1008 1008
## ==========================================================================================================================
## *** p < 0.001, ** p < 0.01, * p < 0.05
Model 7 でその他の変数の値を平均値に固定し、年齢、および学歴と宗教性によって科学副作用否定がどう変化すると予測されるか図示したのが、以下の図である。
なお、宗教性・保革尺度と、世帯収入・性別・相対的剥奪・インターネット利用の交互作用効果は推定してみたが、いずれも有意ではなかった。
米国の研究では科学観は単純加算して一つの指標で表わされるが、WVS6 の日本データでは、科学利得認知と科学副作用否定の二因子でとらえるほうが、フィッティングが良い。米国の研究で因子分析した結果を見たことがないので、米国でも同じ傾向があるのかはわからないが、この点は WVS6 の米国データと比較して、はっきりさせたほうがいよいかもしれない。
結論から言えば、保守性は科学観に影響を与えると言っても良さそうだが、米国での研究成果とはだいぶ異なる結果である。
科学利得認知に関しては、宗教性は関係なく、保革尺度に関しても、中間でもっとも科学に対して否定的で、どちらかと言えば革新よりも保守のほうが科学に対して肯定的である。
ただ、この U 字型の関係は中間回答バイアスによって生じたものなのかもしれない。すなわち、本当は、保守的であるほど科学利得を高く評価しやすいのであるが、かなりの規模で存在する中間回答を好む回答者が、保革尺度の質問にも科学観の質問にも 5 前後の回答をしたために生じているのかもしれない。もう少し詳しく説明しよう。保革尺度のもともとの平均は 5.57 (センタリングしたあとは 0.57)なので、5 を選ぶとおおむね平均的な回答をしていることになる。ところが科学利得認知の因子負荷量の高い質問項目の平均値は 6.8~7.7 で第一四分位点も 6 なので、5 を選ぶと平均はおろか第一四分位点よりも科学に否定的な回答をしていることになる。つまり中間回答愛好者は、保革尺度ではうまく平均的な回答をしているのだが、科学利得認知に関しては、実際の分布の中ではかなり平均よりも科学利得を低く評価する回答をしてしまっており、そのせいで U 字型の関係が生じてしまっているのかもしれない。
もちろん保革尺度と科学利得認知の U 字型の関係は実質的なものかもしれない。保守の望む経済発展や国防のために科学技術は有用だと認められている一方、理性と合理性によって世界の変革を望む革新にとっても、科学は有益だと認められているとしても全く不思議ではない。米国の保守は科学者が環境保護のために経済活動を規制しようとする側面を捉えて、科学を否定的に評価しがちであった。ところが、日本では環境保護の必要性もビジネスに対立するものとはあまり考えられておらず、むしろ環境ビジネスなど積極的に捉えられる場合もあるため、科学は経済活動と対立するどころか、むしろ肯定的に捉えられていると考えられる。確かに日本の保守は、神道-天皇制ー靖国神社といった系列との関わりが強く、宗教と無縁というわけではない(保革尺度と宗教性の相関係数は 0.19 であった)。しかし、神道系列の価値観と科学利得認知は特に対立しているとは考えにくいので、この論文の分析結果は首肯しうるものであろう。
ちなみに、保革尺度と宗教性に関しては、米国の先行研究で科学知識や学歴との交互作用効果が指摘されているが、科学利得認知に関しては有意にならなかった。科学の利得に対する漠然とした認知には、知識はあまり関係ないのかもしれない。
いっぽう科学副作用の否定に関しては、保革尺度が効果を持たないのに対して、曲線的ではあるがおおむね宗教性が高いほど科学の副作用を強く認識する傾向が見られる。このような宗教性の効果は学歴によって異なり、高学歴であるほど宗教性と科学副作用否定の関係は強まる。これは米国の先行研究での指摘通り、宗教性が同程度であっても、科学的知識や合理的な思考能力があるほど、科学の副作用についてはっきりとした判断ができるということだと思われる。
今回用いた宗教性の指標は、米国-キリスト教的な文脈での宗教性とはかなり意味合いが異なり、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさや共同体を重んじる価値観を示していると考えられる。伝統的な宗教性を強く帯びた脱物質主義のようなものだと考えればいいのではないだろうか。ただ、科学副作用否定の負荷量が高い項目に「私たちは科学技術に頼りすぎて信仰をおろそかにしている」というものがあるので、このような相関が出ている可能性もある。つまり、本当は誤差相関なのに実質的な関係があると誤って推定してしまっている可能性もあるということである。
仮に上記の推定結果が正しいと仮定した場合、科学利得認知と保革尺度、科学副作用否定と宗教性という組み合わせで、相関が見られるのはなぜだろうか。理論上は科学に対する態度は 1 因子で、保革尺度も宗教性も効果があるはずであった。しかし、科学の利得を認めることと、科学の副作用を認めることは必ずしも矛盾しないということはよくわかったが、なぜ上のような組み合わせで相関が出るのかはうまく説明できない。もちろん無理に理屈をこねることはできそうだが、あまり確信は持てない。科学観を 1 因子にまとめてしまえば議論はシンプルになるだろうが、フィッティングがどうなるかは SEM で検討してみなければわからない。
男性の方が科学に対して肯定的という結果は、米国の先行研究通りであるが、年齢の効果はかなり異なる。科学利得認知も科学副作用も、年齢の効果は二次曲線的で、前者は下に凸、後者は上に凸であった。ただし、どちらかと言えば高齢者のほうが肯定的であった。若年層のほうが否定的なのはコーホート効果であり、新しい出生コーホートほど脱物質主義的な価値観が強く、そのせいで科学技術に否定的になるということかもしれない。ただ、 U 字型の関係はうまく説明できない。脱物質主義については WVS6 でも尋ねられているので、今後の検討課題の一つであろう。
教育年数の効果は、相対的剥奪を統制すると減少し、科学利得認知に関しては有意にならなかった。つまり、Model 1 で見られた教育年数の効果はかなり、相対的剥奪を媒介しているということである。相対的剥奪が科学の否定的な評価と結びつくのは、先行研究で示唆されていたように、科学の恩恵に浴していない人々にとって、科学技術はよそよそしく抑圧的なものに見えるということかもしれない。世帯収入の効果が相対的剥奪に媒介されていることも、世帯収入そのものは本質的ではなく、生活に困窮しているかどうかのほうが本質的ということであろう。
インターネット利用は、科学利得認知と科学副作用否定の両方に関して、科学観を肯定的にする傾向があったが、インターネットを利用する人々は、日常的にインターネット関連の機器を利用し、その恩恵を感じているから肯定的な科学観を持ちやすいのかもしれないし、逆に科学技術に対して肯定的なので、積極的にインターネットを利用するのかもしれない。
科学利得認知でも科学副作用否定でも、インターネット利用をモデルに投入すると学歴の効果が大幅に減少していた。これは学歴の効果をインターネット利用が媒介しているということで、上述のように、学歴が科学技術を日常生活で役立てるスキルを高め、それが科学に対する肯定的な態度を培うと考えられる。もちろん「学歴 \(\rightarrow\) 科学肯定 \(\rightarrow\) インターネット利用」という経路も考えられるが、どちらかと言えば前者のほうがもっともらしいように感じる。